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大阪高等裁判所 平成8年(行コ)3号 判決 1997年5月22日

控訴人

井口洋二

外五名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

田辺照雄

被控訴人

今井俊一

外一五名

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

川中宏

村井豊明

中島晃

加藤英範

田中伸

高山利夫

藤田正樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(本案前の答弁)

控訴人桝本治、同加藤厚及び同武居桂に対する訴えを却下する。

(本案の答弁)

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、以下のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のうち控訴人らに関する部分記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表一〇行目の「本件各公金支出」とあるのを「本件各支出」と訂正する。

2  同一〇枚目表三行目から四行目にかけての「右申立申立てを許可する決定」とあるのを「右申立てを許可する決定」と訂正する。

3  同一〇枚目裏七行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「(四) 控訴人桝本治、同加藤厚及び同武居桂に対する損害賠償請求権は時効により消滅したか。」

第三  争点に対する判断

一  当裁判所の判断は、以下のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に関する判断」のうち控訴人らに関する部分記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一六枚目裏六行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「行訴法は、民衆訴訟のうち出訴期間の定めのあるものについて同法一五条を準用するにあたり、被告の変更の要件として訴訟物の同一性を要求していないのであり、住民訴訟においても同様に解すべきである。」

2  同一七枚目表五行目の「本件訴訟において、」の前に、以下のとおり付加する。

「行訴法一五条の準用が住民訴訟において認められるのは、地自法二四二条の二第一項一、二、三号の訴訟に限るべきであり、同項四号の場合に準用を認めるべきでない。」

3  同一七枚目表八行目の「不都合が生じる。」とあるのを「不都合が生じるので、行訴法一五条の準用は許されない。」と改める。

4  同一七枚目表八行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「(三) 代位された本来の権利者である地方公共団体が当該職員あるいは相手方に提訴した損害賠償あるいは不当利得返還請求訴訟では被告の変更が認められないのであるから、これとの対比において住民訴訟中の代位請求訴訟においても行訴法一五条の準用を認めないのが衡平である。」

5  同一九枚目裏八行目の「被告らは、」の次に、以下のとおり付加する。

「行訴法一五条の準用が認められるのは、地自法二四二条の二第一項一、二、三号の住民訴訟に限るべきであり、同項四号の場合に準用を認めるべきでないし、」

6  同二〇枚目表一行目の「右にいう被告の利益は、」の前に、以下のとおり付加する。

「地自法二四二条の二第一項一、二、三号に行訴法一五条の準用を認め、同項四号の場合にのみ準用を認めないとする理由はなく、」

7  同二〇枚目表末行の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「(四) 控訴人らは、代位された本来の権利者である地方公共団体が当該職員あるいは相手方に提訴した損害賠償あるいは不当利得返還請求訴訟では被告の変更が認められないのであるから、住民訴訟中の代位請求訴訟においても行訴法一五条の準用を認めるべきでない旨主張する。しかし、先に述べた行訴法一五条の趣旨からすると、地方公共団体自ら損害賠償あるいは不当利得返還請求訴訟を提起する場合には、行政関係法規、行政組織の内容、改正、権限の委任等につき精通しているのであるから、被告とすべき者を誤って訴えを提起してしまう事態が起こりえないが、住民訴訟中の代位請求訴訟においては、右のような事情に精通していない住民が訴えを提起するのであるから、行訴法一五条の準用を認める理由があるといえる。

よって、控訴人らの右主張も採用することができない。」

8  同二三枚目表三行目の次に行目を改めて、以下のとおり付加する。

「すなわち、地方公共団体の会計事務は、会計法の重要な基本原則である正確厳正の原則に立脚して行われるべきである。地自法は、支出負担行為は法令又は予算の定めるところに従って行い、法令又は予算に違反していないことを確認したうえでないと支出できないとしている(地自法二三二条の三、四)。京都市会計規則も、支出命令を発する場合には法令その他の規定に違反していないかどうかの調査、支出命令書には請求書・検査調書その他の書類を添付することを要求しているほか、出納機関は支出命令書に過誤のある支出内容が法令その他の規定等に違反するときなどは支出を拒否しなければならないとしている。本件各支出は、控訴人ら主張の各会合の開催目的、開催年月日、出席者数、出席者の氏名・役職等にいずれも虚偽記載のある支出命令書及び同命令書に添付された書類に基づきなされたほか、出納機関もこれらを看過して支出をしているものであり、正確厳正の原則を踏みにじった重大な違法がある。」

9  同二三枚目表九行目の「異なっている。」の次に、以下のとおり付加する。

「右会合三〇回中、開催年月日が相違するもの九件、出席者数が相違するもの二八件、京都市側の出席者の氏名、役職が相違するもの三〇件である。」

10  同二三枚目裏二行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「(三) 控訴人ら主張の本件各会合は実在しないものである。

控訴人らは、原判決添付別表1及び同2の実際欄記載のとおりの各会合について、京都市ではこの種の会合に稟議書、報告書を作成していないから本件会合の場合にも存在しないことが当然であると主張する。しかし、京都市には、右各会合を明らかにする客観的な資料である稟議書、報告書等が保管されていないばかりか、開催したとする各会合から三年ないし六年後に担当職員らの記憶に基づき再現されたというもので、到底信用できるものではない。

控訴人らは、右各会合に出席した相手方を地元関係者とのみ主張し、それ以上に氏名、住所、役職等を明らかにしない。会合の実在性を基礎付けるためには、会合に出席した者の氏名、住所、役職等を明らかにする必要があり、これらを確認できない以上、真実どこの者が出席したのか、地元の関係者であったのか、会合の目的とされた問題についてはたして協議しうる立場にあったのか、いかなる立場で参加したのかなどについての疑念を払拭できず、正当な会合の実在を認めることはできない。

控訴人らは、相手方との信頼関係を維持することなどを根拠に右出席者を明らかにしない。しかし、このような態度は、同和関係者に対する接待であればその内容を明らかにしないというものであり、監査手続を免れる不合理な結果を招来し、同和行政に対する疑念を生じさせることにもなり、出席者を明らかにしない根拠となるものではない。

(四) 仮に、控訴人ら主張の各会合があったとしても、公務上必要なものではない。京都市の同和行政は、毎年年次計画を立ててそれに必要な予算を組み執行されてきたし、代表的な運動団体とも何度も交渉、協議をし同和行政の検討、見直し、推進が図られている。こうした行政のやり方で通常は十分であり、控訴人らが同和地区の地元関係者と飲食を伴う密室的な会合をする必要性はない。控訴人らのこの点に関する主張は極めて抽象的であいまいであり、会合の必要性を認めるものとはなりえない。」

11  同二三枚目裏六行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「同別表1番号3及び番号5の会合は、実際は一つの会合であるが、経費金額を接遇基準に合わせるために名目上二つの会合があるとしたものである。

原判決添付別表2番号1の会合は、出席者の氏名を明らかにできない事情はないが、昭和六〇年一〇月三〇日に実際の会合が開催された時点の昭和六〇年度の予算のうち右会合にあてるべき項目がなくなったため翌昭和六一年度の予算から会合経費を支出したため、会合の開催日を昭和六一年度中に代えて支出手続を行ったため、支出決定書の日時等が仮想されたものにすぎない。

控訴人ら主張の実際の会合に出席した人数と当該会合の経費の債権者である飲食業者作成の請求書中の出席した人数が一致しないものが三〇件中二八件あるとしても、そのことから控訴人ら主張の実際の会合が不存在であるとはいえない。控訴人らは、出席者の氏名を明らかにできないため同数の仮装の出席者名を借用することが困難であったり、一人当たりの飲食料代金を京都市の定める接遇基準に適合するように人数を調整したため、これらの事情から飲食業者に本件各支出決定書に適合するように請求書を作成させていたに過ぎない。

控訴人ら主張の各会合につき稟議書・報告書は作成されていない。京都市の場合、もともとこのような会合を開催したときには稟議書・報告書を作成していないから、これら書類が存在しないことは当然である。稟議書に代わるものとして名目の会合を表示した本件各支出決定書が作成されているのであり、また責任ある京都市職員が右各会合に出席しているので報告書の作成も必要ではない。稟議書・報告書の不存在が、控訴人ら主張の実際の各会合の存在を否定するものとはなりえない。控訴人らは、実際の会合については、被控訴人らの住民監査請求の際に京都市民生局長ないし同市住宅局長が昭和六三年二月に作成した書類(乙七の1、八)に基づき、記憶を喚起して、各会合の実情を特定したものであり、証拠価値は高いものである。

控訴人らは、実際の右会合に出席した地元関係者の氏名を明らかにしていない。これは氏名を明らかにしないことを約束のうえで、同和行政に関する意見交換、情報提供を求めるために出席してもらっているからであり、その氏名を明らかにしないのは当然のことである。控訴人らは、地元関係者以外の出席者の氏名、会合の日時、場所、会合目的、成果、飲食料金等を明らかにしており、控訴人ら主張の実際の会合があったのは明らかである。」

12  同二三枚目裏七行目の冒頭に「(二)」を付加し、同一〇行目の冒頭の「(二)」を削除する。

13  同二四枚目表七行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「京都市は、飲食を伴う会合においては接遇基準を設けている。その内容は、ビール等飲み物代金・サービス料を除いた料理の代金額を接遇する相手一人当たりの地位に応じて、他都市の特別職とこれに準ずる者に対しては一万円ないし一万五〇〇〇円、局長部長に対しては八〇〇〇円ないし一万円、課長に対しては五〇〇〇円ないし八〇〇〇円となっている。接遇相手が民間人の場合には京都市側の出席者の最高位の者の地位により右基準を適用している。本件の実際の会合の出席者一人当たりの料理代金は、六二五〇円から一万六二五〇円であり右接遇基準を超過した件数は、二九件中一五件、超過金額合計は二七万二五〇〇円、一回平均一万八一三三円となり、その超過額は相当な範囲内であり違法となるものではない。」

14  同二六枚目表二行目の「違法であるといわざるをえず、」から同五行目までを「違法であるといわざるを得ない。」と改める。

15  同二六枚目表末行の「証人内藤俊夫」の次に「、当審証人平野之夫」を付加し、同行の「被告加藤」を「原審及び当審における控訴人加藤」と改める。

16  同二六枚目裏三行目から同二七枚目表四行目までを、以下のとおり改める。

「前記争いのない事実のほか、証拠(甲二の1ないし3、三の1ないし6、八、九、一七ないし二二、二四、乙一、二、三の1、2、四の1ないし30、五、六、七の1、2、一一の1、2、原審証人内藤俊夫、当審証人平野之夫、原審及び当審における控訴人加藤)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 京都市民生局同和対策室は、昭和六一年当時、同和行政を推進するに際し、同和地区住民の理解と協力、各種の要望、意見を聞く必要があるほか、地域改善対策特別措置法の失効を前に多くの課題が存在しているとして、各地区の運動団体との協議、懇談をしていたほか、出席を依頼した地元関係者の相応の時間確保、打ち解けた中での話合いをする必要があるとの見地から、京都市の負担で料亭等の飲食施設において、京都市職員と地元関係者が、飲食を共にしながら、協議、懇談をすることがあった。

(2) 同和対策室は、右のような経費の支出を伴う協議、懇談をした場合、第三者に対し、京都市と飲食を共にした地元関係者との癒着があるのではないかとの誤解ないし印象を与えかねず、地元関係者の信頼を確保することからも、飲食を共にした地元関係者の氏名、住所、役職等を一切明らかにしない方針の下に、地元関係者にもその旨約束をしていた。

同和対策室は、そのため、右のような飲食を伴う協議、懇談については、稟議書、報告書等の文書を一切作成せず、会計処理の文書にも実際の協議、懇談内容を記載せず、実際には開催されていない虚偽の協議、懇談内容を記載していた。

(3) 以上の処理の方法は、京都市住宅局においても、同様であった。

(4) 京都市民生局同和対策室と同市住宅局では、実際には行われていない会合等について、原判決添付別表1及び同2の各名目欄記載のとおりの会合が行われたとして、本件各支出がなされた。

(5) 控訴人らは、本件各支出については、担当者の残していたメモ、手帳等をもとに記憶を喚起し、住民監査事務局長あての昭和六三年二月六日付け及び同月八日付け文書を作成し(乙七の1、2、八)、さらにこれをもとにするなどして陳述書を作成し(乙四の1ないし30)、原判決添付別表1及び同2の各実際欄記載のとおりの会合が行われたとしている。

以上の事実を認めることができる。

右によれば、京都市民生局同和対策室と同市住宅局では、控訴人ら主張と同種の飲食を伴う協議、懇談について、稟議書、報告書等の文書を一切作成しないだけでなく、会計文書にも実際に開催された協議、懇談内容を記載しないで、開催されていない虚偽の協議、懇談内容を記載する事務処理をしていたというのである。又、控訴人ら主張の会合について、開催年月日が支出命令書の支出年月日と異なるものがあったり、出席人数が債権者である飲食業者作成の請求書と異なるものが三〇件中二八件もあったりするほか、出席したという地元関係者の氏名も明らかにされていないが、これらはいずれも民生局同和対策室と住宅局内部における事務処理の都合ないし操作によるというのである。そして、控訴人ら主張の会合の支出の裏付資料として、当時の担当者の残していたメモ、手帳等に基づいて記憶を喚起し、昭和六三年に住民監査事務局長あての文書が作成され、さらにこれに基づいて陳述書が作成されたというのである。しかも、控訴人ら主張のメモ、手帳等がどの程度残っていたのか、その記載内容がどの程度のものであったのか明らかではなく、昭和六一年に行われた会合について昭和六三年に作成された文書にどの程度の正確さがあるといえるのか疑問が残るのである。このように京都市ではこの種の協議、懇談について、意図的に文書を残さないというだけでなく、内容虚偽の会計処理の文書を作成するという異常な事務処理が行われていたという状況のもとで、後日に右にみたような経過で作成された関係者の陳述書や供述のみから、控訴人ら主張の原判決添付別表1及び同2の実際欄記載の会合が同表1及び同2の名目欄記載の会合に見合うものとして真実あったのかどうか定かではないというほかはない。

仮に、控訴人ら主張のとおりの会合が開催されていたとしても、右陳述書には、右会合の目的のほか、当時の課題、会合を持つに至った経緯、意見交換の状況、会合の結果実施した行政内容等が述べられているものの、その内容はかなり画一的な文言もみられ、出席者についても地元関係者で住民の意見を集約できる人とするにとどまりそれ以上にどのような基準で出席者を決めていたのか、その選出が適正かどうか明らかではなく、その具体的な氏名等を明らかにしていないし、意見交換の内容もおおむね通り一遍の抽象的なものでその内容からしても飲食を伴うほどの必要性があるかどうかも定かとはいえない。特に、京都市は、同和関係の運動団体等とも協議、懇談をもっているのであり、そのうえになお本件各支出を伴うような控訴人ら主張の各会合が必要であったのか必ずしも明らかでない。なお、原判決添付別表2番号1の会合は、同和行政とは直接関係ないが、参加者の氏名を明らかにしないなどその他の本件各支出の場合と同様の状況である。さらに、控訴人ら主張の京都市の接遇基準によっても、控訴人主張の接遇基準を超過した件数が二九件中一五件もあるというのであるから、この点は、むしろ、控訴人ら主張の会合が一般の接遇内容からかけ離れていたことを推測させるものである。

そうだとすれば、本件各支出は、原判決添付別表1及び同2の名目欄記載の会合に見合うものとして実際存在しない会合のために支出されたか、仮に会合があったとしても、本件各支出をして関係者を接遇したうえで行政目的を達成しなければならない必然性を見出し難く、その必要性があったものと認めることはできない。したがって、右各会合の存在と行政上の必要性を前提とする控訴人らの主張は採用できない。」

17  同四一頁裏六行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「七 消滅時効(争点2(四))について

1  控訴人らの主張

控訴人桝本治、同加藤厚及び同武居桂が損害賠償債務を負担しているとしても、右債務は公法上のものであるから、既に五年の経過により時効消滅している。

すなわち、京都市の右三名の控訴人らに対する損害賠償請求権の消滅時効は、本件各支出の最終日から進行するが、右最終日は控訴人桝本治については昭和六一年一二月一七日、同加藤厚については昭和六一年一二月一二日、同武居桂については昭和六一年一〇月一七日であり、被告変更申立ての行われた平成三年一月二六日までには右各最終日からいずれも五年以上経過しているので、消滅時効が完成している。

2  被控訴人らの主張

(一) 京都市は、現在に至るまで本件各支出につき京都市に損害が発生していないとして右三名の控訴人らに対して損害賠償請求権を行使していないから、消滅時効は進行していない。

(二) 仮に、消滅時効が進行していたとしても、本件のように被告の変更が行われた場合には、消滅時効は当初の被告らに対する訴えが提起された時点において中断しているというべきである。本件において、当初の被告らに対して訴えが提起されたのは、昭和六三年四月一五日であるから、京都市の前記三名の控訴人らに対する損害賠償請求権の消滅時効の進行は、右訴えの提起により中断している。

3  判断

(一)  京都市の右三名の控訴人らに対する損害賠償請求権は、先に述べたとおり、地自法二四三条の二第一項に基づく請求権であるから、同法二三六条一項の五年の消滅時効の規定が適用されることになる。

右三名の控訴人らに係る本件各支出のうち最終のものは、昭和六一年一二月一七日であるから(争いがない。)、平成三年一二月一七日の経過により、右三名に係る損害賠償請求権の消滅時効期間が経過していることになる。

(二)  そこで、当初の被告らに対して訴えが提起された昭和六三年四月一五日に時効が中断されたか検討する。

地自法二三六条に定める消滅時効は、同条に定める権利の不行使が五年間継続した場合に、この状態を真実の権利関係に合致するかどうかを問わずその不行使という事実状態を尊重し、また権利のうえに眠る者を保護する必要がないことから、その不行使に係る権利を消滅させるものである。そして、住民が普通地方公共団体に代位して行う当該職員に対する代位請求の訴えは、既に住民監査請求を経て監査の対象とされた行為又は事実と代位請求の訴えにおいて審判の対象とされた行為又は事実とが同一である以上、当初の代位請求の訴え提起の際に被告とされず被告変更決定により新たに被告とされるに至った者に対する関係においても、代位請求の訴え提起時において、権利の不行使という事実状態がなくなり、また権利のうえに眠る者でもなくになったと評価できるから、代位請求の訴え提起により時効中断の効果が発生するものと解するのが相当である。

本件においては、先に述べたように、被控訴人らは、昭和六三年四月一五日に本件各支出が違法であるとして本件訴訟を提起し、平成六年一月二六日に被告の一部を右三名の控訴人らにするよう変更許可の申立てをし、京都地方裁判所は平成六年六月二七日に右申立てを認め本件被告変更決定をしたものである。そして、先に述べたように、既に住民監査請求を経て監査の対象とされた行為又は事実と本件訴訟である代位請求の訴えにおいて審判の対象とされた行為又は事実とは同一であるといえるから(第三の三の3参照)、当初の代位請求の訴え提起時である昭和六三年四月一五日に、右三名の控訴人らとの関係においても、時効中断の効果が生じていたものと認めるのが相当である。

したがって、時効中断の効果が生じているので、控訴人らの消滅時効の主張は理由がない。」

二  以上によれば、被控訴人らの控訴人らに対する訴えのうち、控訴人桝本治、同加藤厚及び同武居桂に対する訴え却下の申立ては理由がなく、控訴人井尻浩義に対する訴えのうち原判決添付別表1記載の番号19及び20の各支出に係るものは不適法であり、控訴人らに対する主位的請求(控訴人井尻浩義については、右訴え却下部分を除く。)は理由がなく、右控訴人らに対する予備的請求(控訴人井尻浩義については前記に同じ。)は、先に述べた限度で理由があるから認容すべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 横山光雄)

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